大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和63年(特わ)2710号 判決 1989年4月04日

本籍

京都市北区紫竹東北町五五番地の二

住居

東京都町田市南大谷九一二番地五九

会社役員

井上宏

昭和九年一〇月二四日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官井上經敏、同小林弘卓出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役八月及び罰金一五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、横浜市緑区鴨居四丁目一番九号ほか一か所において「鳥忠鴨居店」等の名称で飲食店を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、収入の一部を除外して架空名義預金を設定するなどの方法により、所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五八年分の実際総所得金額が四八六二万五三一三円であつた(別紙一の(1)修正貸借対照表参照)のにかかわらず、同五九年三月一二日、東京都町田市中町三丁目三番六号所在の所轄町田税務署において、同税務署長に対し、同五八年分の総所得金額が一九八一万三五六一円で、これに対する所得税額が六〇一万二五〇〇円である旨の虚偽の内容の所得税確定申告書(平成元年押第二一〇号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて、不正の行為により、同年分の正規の所得税額二二七〇万三一〇〇円と右申告税額との差額一六六九万六〇〇円(別紙一の(2)脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五九年分の実際総所得金額が五一五三万九一六〇円であつた(別紙二の(1)修正貸借対照表参照)のにかかわらず、同六〇年三月一一日、前記町田税務署において、同税務署長に対し、同五九年分の総所得金額が一七四六万四七八〇円で、これに対する所得税額が四五〇万四一〇〇円である旨の虚偽の内容の所得税確税申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて、不正の行為により、同年分の正規の所得税額二三九四万一一〇〇円と右申告税額との差額一九四三万七〇〇〇円(別紙二の(2)脱税額計算書参照)を免れ

第三  昭和六〇年分の実際総所得金額が五八六九万七三一七円であつた(別紙三の(1)修正貸借対照表参照)のにかかわらず、同六一年三月一一日、前記町田税務署において、同税務署長に対し、同六〇年分の総所得金額が一七〇六万三五七三円で、これに対する所得税額が四四七万二六〇〇円である旨の虚偽の内容の所得税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて、不正の行為により、同年分の正規の所得税額二八八〇万六九〇〇円と右申告税額との差額二四三三万四三〇〇円(別紙三の(2)脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書六通

一  収税官吏作成の被告人に対する質問てん末書

一  長濱恭彦及び鶴村直人の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  現金調査書

2  預金調査書

3  有価証券調査書

4  ゴルフ会員権調査書

5  棚卸資産調査書

6  株式取引保証金未収入金調査書

7  貸付金調査書

8  建物調査書

9  建物付属設備調査書

10  車両運搬具調査書

11  器具備品調査書

12  事業主勘定調査書

13  買掛金調査書

14  借入金調査書

15  未払金調査書

16  預り金調査書

17  事業専従者控除額調査書

18  申告所得調査書

19  有価証券売買損益調査書

一  町田税務署長作成の証明書

一  収税官吏作成の領置てん末書

判示第一及び第二の各事実につき

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  前払金調査書

2  未払源泉所得税調査書

3  株式取引未払金調査書

4  利子所得調査書

判示第一及び第三の各事実につき

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  保証金敷金調査書

2  譲渡所得特別控除額調査書

判示第一の事実につき

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  土地調査書

2  扶養控除調査書

一  押収してある昭和五八年分の所得税確定申告書一袋(平成元年押第二一〇号の1)

判示第二の事実につき

一  収税官吏作成の総合短期譲渡所得(損失)調査書

一  押収してある昭和五九年分の所得税確定申告書一袋(同押号の2)

判示第三の事実につき

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  預り保証金調査書

2  総合長期譲渡所得調査書

3  譲渡所得1/2控除額調査書

一  押収してある昭和六〇年分の所得税確定申告書一袋(同押号の3)

(法令の適用)

一  罰条

判示各所為につき、いずれも所得税法二三八条一、二項

一  刑種の選択

いずれも懲役刑と罰金刑の併科

一  併合罪の処理

刑法四五条前段、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に加重)、罰金刑につき同法四八条二項

一  労役場留置

刑法一八条

一  懲役刑の執行猶予

刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、「鳥忠鴨居店」等の名称で飲食店を営む被告人が、収入の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、虚偽過少申告をし、昭和五八年、五九年及び六〇年の三年分合計六〇四六万一九〇〇円の所得税をほ脱した事案である。そのほ脱額は高額であり、ほ脱率も通算して八〇パーセントを超える高率であること、犯行の動機は事業収益の増加に乗じて資金の蓄積を図つたもので、特段同情の余地はないこと、所得秘匿の手段、方法も仕入れの一部を除外するとともに、右仕入高に一定の差益率を乗じて計算した金額を売上として書き直した上、正規の伝票類を廃棄するなど、計画的かつ巧妙であること等の事情を考慮すると、犯情は悪質であり、被告人の刑責を軽く評価することはできない。

しかしながら、被告人は、本件ほ脱の事実を全面的に認め、反省していること、本件各年分の修正申告を行い、本税、附帯税を完納していること、本件を契機にその事業を法人組織に変更し、今後は適正な税務処理を行う姿勢を示していること、被告人には道路交通法違反による罰金刑二回のほかに前科、前歴がないこと等の被告人に有利な事情も認められ、被告人の年齢、家庭の事情等をも併せ考えると、被告人に対しては、今回に限り懲役刑の執行を猶予するのが相当であると判断し、主文のとおりの刑を量定した次第である。

(求刑懲役八月及び罰金二〇〇〇万円)

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 稲田輝明)

別紙一の(1)

修正貸借対照表

昭和58年12月31日現在

井上宏

<省略>

別紙一の(2)

脱税額計算書

昭和58年分 井上宏

<省略>

別紙二の(1)

修正貸借対照表

昭和59年12月31日現在

井上宏

<省略>

別紙二の(2)

脱税額計算書

昭和59年分 井上宏

<省略>

別紙三の(1)

修正貸借対照表

昭和60年12月31日現在

井上宏

<省略>

別紙三の(2)

脱税額計算書

昭和60年分 井上宏

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例